はじめに
こんにちは、なき爺です。
近年、中国ではガンダムやガンプラの人気が急速に広がっているようです。上海に設置された実物大フリーダムガンダム立像、各地へ拡大するガンダムベース、動画サイトでの公式アニメ配信、SNSに投稿される完成模型など、ガンダム文化に触れる機会は以前より大きく増えています。
かつては一部の熱心な愛好家が楽しむ輸入ホビーだったガンプラも、いまや中国の若者向けカルチャーを代表する商品の一つになったようにも見えます。
しかしその一方で、人気の拡大と並行するように、ガンプラの海賊版・模倣品も市場に根強く存在しています。正規品をそのまま複製したものだけでなく、既存機体を独自解釈で大型化・高級化したもの、バンダイが公式に商品化していない機体をキット化したもの、別ブランドを名乗りながらガンダム作品の意匠を強く想起させるものまで、その姿はさまざまです。こうした商品は日本だけでなく、むしろ海外を中心に世界各地へ流通しています。
この現象を、単純に「海賊版を買う人がいるから」「著作権意識が低いから」とだけ解釈して、本当に良いのでしょうか。
今回は、なぜ中国で海賊版・模倣品ガンプラがなくならないのかについて、中国におけるガンダム人気の拡大と、非正規キットが生まれ続ける背景にある歴史的・産業的な側面から考えてみたいと思います。
1)ガンダムが中国で広まった背景
海外アニメ放送に対する政策上の制約
中国でガンダムが知られるようになった経緯は、日本とはやや異なっていたと考えられます。
日本では、テレビアニメの放送とプラモデル販売が比較的近い関係で展開されてきました。
一方、中国本土では、ガンダム作品が全国規模の正規テレビ放送を通じて継続的に浸透していった、という形ではなかったようです。
中国では2000年代、海外アニメのテレビ放送に対して、行政上の審査や放送時間帯の管理が行われていました。こうした放送行政を所管していたのは、当時の国家広播電影電視総局です。
同局は2006年4月、「テレビアニメ放送をさらに規範化することに関する通知」を発表しました。
この通知は同年9月から実施され、毎日17時から20時までの時間帯に、海外制作アニメおよび海外アニメを紹介する番組を放送しないようテレビ局に求める内容でした。対象は日本アニメに限らず、海外制作アニメ全般です。
また、この時間帯における国産アニメおよび国産アニメ関連番組の比率を60%以上とする方針も示されました。背景には、青少年向け映像コンテンツの管理に加え、中国国内のアニメ産業を育成する意図があったとみられます。
その後、2008年には海外アニメの放送が制限される時間帯が17時から21時までに拡大されました。海外作品がまったく視聴できなかったわけではありませんが、日本のように新作アニメがテレビを通じて広く、継続的に届く環境とは異なっていたといえるでしょう。
テレビ以外の経路で届いたガンダム
2000年代の中国では、VCD・DVD、インターネット上のファイル共有、ファンによる中国語字幕などが、日本アニメに触れる経路として一定の役割を果たしていたようです。
『機動戦士ガンダムSEED』は日本で2002年10月に、『機動戦士ガンダム00』は2007年10月に放送を開始しました。中国では特に『機動戦士ガンダムSEED』シリーズの人気が高いといわれています。
これらの作品も、中国では正規の放送・販売ルートだけではなく、当時広がっていた非公式の映像流通や字幕文化を通じて認知を高めた側面があったと考えられます。
もちろん、海賊版ディスクや無許諾配信には著作権上の問題があり、正当化されるものではありません。ただし、公式な視聴機会が限られていた時期に、こうした経路が作品の認知拡大へ影響した可能性はあるでしょう。
2)ガンプラは中国に持ち込まれたが、手に届かなかった
正規品は主に輸入品だった
ガンダム作品が映像ディスクやインターネットを通じて知られるようになる一方で、ガンプラを実際に手に入れることは、多くの中国のファンにとって簡単なことではなかったようです。
特に2000年代から2010年代前半ごろまで、ガンプラは身近な玩具というより、日本から来た高価な輸入ホビーとして受け止められる場面が多かったと考えられます。
当時の中国本土では、現在のような公式専門店や安定したオンライン販売網が十分に整っていたわけではありません。ガンプラは、輸入玩具を扱う店舗、アニメ・模型の専門店、並行輸入業者、個人販売などを通じて流通していたとみられます。
日本で販売されていた価格に加え、国際輸送費、輸入費用、流通業者の利益などが上乗せされます。中国に限らず、海外で正規品のガンプラを購入する場合、同じキットでも日本の定価と比べ、日本円換算で1.5倍から2倍程度の価格になることがあります。国や為替、販売時期によって変動するため、あくまで価格のイメージです。
また、品揃えも十分ではなかったと考える方が自然でしょう。人気機体や新作キットは入荷数が限られ、都市部の専門店へ行かなければ見つからない場合もあったと思われます。地方のファンにとっては、模型店そのものが近くにないこともあり、欲しい商品を探すだけでも手間がかかったでしょう。
子どもや学生には高い趣味だった
2000年代後半から2010年代前半にかけて、中国本土で販売されていた正規ガンプラは、子どもや学生にとって気軽に買える価格帯とは言いにくい商品でした。

当時の小学校高学年から中学生の子供の1ヶ月のお小遣いは50元から100元程度であり、HGでも1ヶ月分に近い、あるいはそれを上回る出費になり得ます。MGや大型キットは、日常的なお小遣いだけで購入するには、さらに負担の大きい商品だったと考えられます。(家庭環境・地域によって異なります)
加えて、模型の購入には親の理解も必要でした。中国は日本と比較しても非常に強い学歴社会・受験競争社会といえます(一人っ子政策が2015年まで続いたことも遠因と考えられます)。一部の親世代にとって、プラモデルは集中力や手先の器用さを育てる趣味というより、勉強時間を削る玩具として受け止められる場合もあったでしょう。
このように、当時のガンプラは、作品を好きになった子どもや学生にとって憧れの品である一方、価格、入手性、家庭の理解という点で距離のある商品でもありました。
「欲しいが買えない」という経験の積み重ねは、後に安価な代替品や非公式キットへ関心が向かいやすくなる、心理的な要因の一つになった可能性があります。

3)中国で発展したプラスチック産業と成形技術
玩具生産とともに育った射出成形技術
中国でガンプラの模倣品や非公式キットが生まれ得る背景を考える際には、ガンダム人気だけでなく、プラスチック製品を大量に生産できる産業基盤がどのように育ってきたかにも目を向ける必要があります。
中国のプラスチック加工産業は、1978年以降の改革開放を契機として大きく発展してきました。海外資本や設備、製造ノウハウを受け入れる政策が進められるなか、香港・台湾・東南アジアとの物流や商取引に近い華南地域を中心に、玩具、日用品、家電部品、包装材などを生産する工場が増えていきました。
プラモデルの部品を作るうえで重要なのが、溶かした樹脂を金型へ流し込み、冷却して成形する「射出成形」です。ランナーにつながった細かなパーツを大量に生産するガンプラも、基本的にはこの技術の上に成り立っています。
中国では、玩具や生活雑貨、電子機器の外装などの生産拡大に伴い、射出成形機の導入、金型製作、塗装、印刷、梱包といった関連技術が広く蓄積されていきました。当初は比較的単純な製品が中心だったとみられますが、海外企業からの受託生産や輸出向け製品の製造を通じて、品質管理、納期管理、部品の大量生産に関する経験も積み重ねられていったようです。
華南に形成された玩具産業の集積

中国の玩具産業を語るうえでは、広東省の珠江デルタ地域、そして汕頭市澄海区などの存在が重要です。
これらの地域では、玩具メーカーだけでなく、金型加工業者、射出成形工場、塗装業者、印刷・包装業者、物流事業者などが近い範囲に集まり、分業型の生産ネットワークが形成されていきました。

例えば、ある事業者が製品の企画や金型設計を担い、別の工場が成形を行い、さらに別の業者がパッケージを印刷する、といった形です。このような集積では、すべての設備や人材を一社で抱えなくても、地域内の企業同士で工程を組み合わせながら製品化を進めやすくなります。その結果、新しい玩具を比較的短期間で市場へ投入できる環境が整っていったとみられます。
これは正規の玩具や輸出向け製品の生産を支える強みである一方、権利者の許可を得ない模倣品を作る側にとっても利用しやすい条件になり得ました。もちろん、高い成形技術や生産能力そのものが問題なのではありません。中国のプラスチック産業は、世界中に玩具、生活用品、工業製品を供給してきた重要な製造基盤です。
ただし、金型製作、射出成形、印刷、包装、物流までを比較的短期間で組み合わせられる環境は、正規品だけでなく模倣品の生産にも転用され得ます。ガンプラのように部品数が多く、組み立て構造を持つ商品であっても、中国にはそれを形にできる産業的な下地が形成されていったと考えられるでしょう。
4)2010年代にガンプラ人気が高まった理由
スマートフォンとネットが模型情報を身近にした
2010年代の中国では、スマートフォン、動画サイト、SNS、ECの普及によって、ガンプラを「見る・調べる・買う・作る・発信する」環境が整っていきました。

2005年ごろまで、中国で模型に関する情報を得る手段は、パソコン、専門誌、模型店、愛好家どうしの交流などに限られていました。特に地方では専門店が少なく、新製品や制作方法に触れる機会には地域差がありました。
しかし、スマートフォンの急速な普及により、中国では模型に関する情報を地域を問わず手軽に得られるようになりました。ファンは、bilibili、微博(Weibo)、小紅書(RED)、抖音(Douyin)などを通じて、機体設定、キットレビュー、製作動画、塗装・改造方法、完成品写真などを検索・共有できるようになりました。
ネット上で制作例や解説動画に触れられるようになったことは、プラモデルを説明書どおりに組み立てるだけでなく、自分らしく作ってみたいという関心を広げる大きな要因になったと考えられます。
ECと公式イベントが文化を広げた
2010年代には、淘宝(Taobao)、天猫(Tmall)、京東(JD.com)などのECサービスが急速に広がりました。AlipayやWeChat Payなどの電子決済も普及したことで、消費者はスマートフォンから商品を探し、そのまま購入できるようになりました。
従来、ガンプラを探すには都市部の模型店や輸入玩具店へ行く必要があり、地方では希望するキットを見つけにくい場合もありました。しかしECの普及後は、地域を問わず在庫、価格、購入者のレビューを比較して注文できるようになりました。
また、2012年には公式コンテストであるガンプラビルダーズワールドカップ(GBWC)の中国予選が開催されました。GBWCは組み立てだけでなく、塗装、改造、ジオラマなどを含めて作品を評価するコンテストです。このような公式イベントは、ガンプラが単なるキャラクター商品ではなく、自分なりの表現を加える創作ホビーでもあることを示す機会になりました。
補足)GBWCについてはこちらを参照ください

さらに2018年8月には、上海に公式店舗「THE GUNDAM BASE SHANGHAI」が開業しました。商品販売に加え、完成見本、ジオラマ、限定品、イベントなどを通じて、ガンプラ文化を可視化する拠点となっています。2026年7月末現在、中国では上海・北京・深圳・広州・成都の5カ所に「THE GUNDAM BASE」が展開され、各地には「THE GUNDAM BASE SATELLITE」も設けられています。これらは正規品の販売に加え、作品鑑賞やファンどうしの情報交換を支える拠点となっています。
5)2010年代以降、中国の成形技術が高まった理由
高性能設備・デジタル技術への投資
精密な成形品を安定して生産するには、射出成形機だけでなく、高精度な金型を製作・測定する設備が不可欠です。2010年代以降、中国企業では、高速マシニングセンター、放電加工機、5軸加工機、三次元測定機、画像検査装置などの導入が進みました。また、成形品を取り出すロボット、自動搬送装置、外観検査機器、生産管理システムも普及しました。
さらに、3D CAD、CAM、樹脂流動解析(CAE)、3Dスキャナー、3Dプリンターの普及も、開発速度を大きく高めました。金型製作前に樹脂の流れ、冷却、変形の可能性を検討し、試作と修正を短期間で行えるようになったためです。

国際取引と政府支援が求めた品質向上
中国は、海外ブランド向けの玩具、電子機器、日用品を生産する重要な拠点に成長していました。
輸出製品には、安全基準、寸法公差、材料管理、耐久試験、外観検査、納期管理など、厳しい品質保証が求められます。こうした要求に継続して対応するなかで、現地企業の金型加工、測定、検査、工程管理の能力は向上したと考えられます。
また、中国政府は2015年の「中国製造2025」などで、製造業の高度化、自動化、デジタル化、工作機械、ロボット、新材料の育成を重点方針に掲げました。これらは玩具やプラスチック成形だけを対象とした施策ではありません。しかし、金型加工機、射出成形機、測定機器、自動化設備への投資を後押しし、中国の製造基盤全体を底上げする効果を持ったといえます。
こうして中国では、複雑で精密なプラスチック部品を、短期間かつ大量に生産する能力が大きく高まりました。この製造基盤は、既存製品を研究した互換製品だけでなく、市場に存在しない機体の模型化や、独自設計による模型製品の開発を可能にする条件にもなったと考えられます。
6)海賊版・模倣品ガンプラが生まれ、なくならない理由
精密・低コスト・短納期を可能にした製造基盤
海賊版・模倣品ガンプラが生まれ、流通を繰り返す背景には、中国のプラスチック製造技術の向上だけでなく、正規品の供給とファンの希望との間にある隔たり、さらにインターネットを介した販売・情報拡散の仕組みが関係していると考えられます。
華南地域をはじめとするプラスチック製造の集積地では、金型製作、成形、塗装、印刷、包装、物流といった工程を、近接した企業群で担うことができます。そのため、試作から量産までを短期間で進めやすい環境があります。
市販品の部品構成や接続方法を分析するリバースエンジニアリング、デジタル設計、高性能設備の導入は、複雑な模型を比較的低コストで製品化する能力を高めました。この製造基盤は本来、正規の玩具、家電、日用品などを支えるものです。しかし同時に、権利処理を経ない製品を作る技術的条件にもなり得ます。
正規品の品薄と未商品化機体への需要
ガンダム作品には、アニメ、漫画、小説、ゲーム、設定資料などを含め、非常に多くの機体や派生機が存在します。しかし、バンダイがすべての機体をプラモデル化することは困難であり、現実的ではありません。そのため、「公式には存在しない機体を立体化してほしい」「より大型で高精細な仕様が欲しい」「改造用の部品が欲しい」といった需要は、ガンダムファンであれば多かれ少なかれ抱くものだと思います。
加えて、人気商品の品薄、限定品の入手困難、生産終了品の価格高騰、地域ごとの供給差も、正規品だけでは満たされない不足感を生じさせていると考えられます。非正規品は、こうした隙間に入り込みやすい商品です。
改造を楽しむ模型文化との関係
ガンプラは、組立説明書通りに組み上げるだけでなく、塗装、部品交換、ミキシング、ディテールアップ、後ハメ加工などを通じて、自分なりの作品を作る楽しみを持つ趣味です。キットを完成品としてだけでなく、加工や創作のための素材として捉える文化があります。
そのため一部のガンダムファンには、多少の調整や追加工作が必要であっても、公式にはない機体、装備、サイズ、アレンジを求める需要があります。
非正規品の中には、こうした改造需要を意識して、独自の追加パーツや大型化、高密度なディテールを売りにするものもあります。これは、自分で改造してオリジナル作品を作るよりも、手軽に正規品とは異なる作品が作れるように感じさせ、需要がなくならない理由の一つになっている可能性があります。
ただし、個人が正規キットを改造して楽しむことと、第三者がガンダムの機体デザイン、名称、パッケージ表現などを無断で利用し、製品として製造・販売することは別の問題です。改造文化があることは、海賊版・模倣品を正当化する理由にはなりません。
ネット上で需要と供給が結び付く仕組み
現在では、越境ECサイト、フリマアプリ、SNS、動画サイトなどを通じて、海外製キットの情報や購入先が広まりやすい状況です。完成写真やレビュー動画によって製品への関心が高まり、購入希望者は販売ページへ容易にたどり着けます。
また、一部の販売者は、商品名を略称や隠語に変える、画像や説明文を差し替える、別の出品者名義で再出品するといった方法で、監視や削除を避けようとします。権利者や販売プラットフォームが出品を削除しても、同じ商品が別の場所で再び販売されることがあり、流通経路を完全に断つことは容易ではありません。
中国政府は知的財産権保護を強化しており、バンダイナムコグループなどの権利者も、警告、出品削除要請、法的対応、正規品に関する啓発などを進めています。しかし、販売者が多く、国境を越えて取引され、ネット上で出品が繰り返される以上、取締りには限界があります。正規品の品薄、未商品化機体への期待、価格差といった需要が残る限り、購入者を求める販売者も現れやすいのです。特に海外などでは模倣品で知的財産権を侵害していることに気づかずに、購入している可能性もあります。
最後に
最後まで読み進めていただきありがとうございました。
海賊版・模倣品ガンプラがなくならない背景には、製造技術の向上、正規品の品薄や未商品化機体への需要、改造を楽しむ模型文化、インターネットを介した流通の容易さなど、複数の要因があります。しかし、こうした事情は、他者のデザインや作品を無断で利用することを正当化するものではありません。
近年は、中国のメーカーにも独自デザインによる魅力的なプラモデルを生み出す動きが見られます。また、バンダイも生産体制の強化を進めています。今後は、各メーカーが独自の創造性と技術力で競い合い、ファンが正規品と模倣品の違いを正しく理解することが重要だと考えます。
模倣品を作らない・売らない・買わない。
この意識が世界の模型ファンに広がることで、創作者、メーカー、販売店、そしてファンがともに安心して楽しめる、健全な模型文化につながっていくのではないでしょうか。

